
GANさんのParis日記 [[/img/paris_logo.jpg
投稿日時 2005-2-16 16:41:12 | トピック: 岡崎がんのParis日記
| パリの街角でコーヒー豆を買う
コーヒーが切れた。豆を買いに行かなければならない。家で仕事をすることが多く、コーヒーカップは常に手元に置いておくので、コーヒーが切れる頻度はかなり高い。 コートを引っかけ、アパートを出、小路を曲がると賑やかな商店街に出る。かつて庶民的であった我がカルティエは、ここ数年、新しい店が続々とオープンし、ファショナブルになり、外来の客が増え、まあ、居住者としては少々うるさく思っている。 それはともかく、このカルティエには焙煎した豆を売っているコーヒー専門店が二軒ある。僕が行くのは一、二年前に開店したきれいな女性のいるオシャレな店ではなく、以前からある、太ったおばさんが経営する古びた店の方である。なにもおばさんに惹かれているわけではない。心は美人のいる店へと傾くのだが、味覚はおばさんの店の味に固執する。やっかいである。
心惹かれるどころか、僕はこのおばさんを苦手としている。どうにも取っつきにくい。見るからに庶民出身のわりには、庶民らしい気さくさや打ち解けた態度を見せたことがない。 対応はていねいなのだが、かえって慇懃無礼の気味が濃い。笑みの底には冷ややかさが明らかで、こちらとしても素直に笑みを返せない。総じてどうも見下されているのではないかと警戒心が解けないのである。 加えてこのおばさんは図体に似合わず、甲高い声を発する。趣味がよいとは言えないコーヒーカップを所狭しと飾った店内に、太鼓腹で増幅された耳障りな声が鳴り響く。要するにこの店には魅力的なところは一つもない。 それでも通い続ける。このおばさんのカフェでなくてはならないからである。「モカ・フォール」、深炒りモカがそれである。この界隈に引っ越して初めて買ったコーヒーがこれだった。 これがいいと思ったら僕も頑固なタチだ。以来、気詰まりを押し殺し、ずっとこのモカで通している。 「挽き方は?」。「イタリアン」と僕は答える。直接火にかけるタイプの簡易エスプレッソマシンを使っている。「何グラム?」。「二百五十」。そして最後におばさんは例の声で尋ねる。「アベック・サ?」。他にご入り用はと、僕がコーヒー以外のものを買ったことはないのに、毎回決まって付け加えるのだ。「セ・トゥ」。それだけです。これ以外の言葉を交わしたこともない。十年一日のごとくのこの掛け合いを繰り返している。 さあ、そろそろ腰を上げ、モカ・フォールを補充してこなければならない。おばさんの店ヘひとっ走りして、例の掛け合いをもう一度繰り返すとしよう。
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