生真面目漫筆#2 [[/img/R_contents_matsuki.gif

投稿日時 2005-12-4 23:22:26 | トピック: 生真面目漫筆

第二話 「わたしとこけし」vol.2

またしてもオークションで熱いバトルを繰り広げた私であった。いやー、凄いこけしが出たのです。秋田の木地山の作家小椋久太郎のもので、作風がこれまで私が集めたものと違って、木地山の手前に小安という村があって、そこの作家伊藤常治の影響を受けているのではないかと思われるものなのです。なんともミステリーです。
みなさん、このような話、ぜんぜんつまらないでしょうがもう少し付き合ってください。
 私は秋田の雄勝郡にある木地山というところでこけしを作っていた小椋久四郎(久太郎の父で昭和4年,に没。58歳)をいろいろ調べているのですが、この人の作ったこけしは今や何十万円とします。久四郎の父は徳右衛門といって木地師(茶びつ、椀、こまなどの玩具やこけしを作る)。
信州から会津を経由してこの土地に来たといわれています。徳右衛門→久四郎→久太郎ですね。
で、小椋久四郎は昭和初期にこけしブーム時のスーパースターで、その作風を継いだ息子の久太郎はサラブレッド。なんで伊藤常治の真似をしたのかが疑問なのです。どうでもいい話しといえば、どうでもいい話ですが、はい、ここまでマニアな話は今回の導入部でありまして、実は伊藤常治のこけしを角館で購入し、それが原因となって、若い女性の盲腸の傷を拝見してしまったというのが今回のあらすじです。

 もう3年前になりますが、取材で秋田の角館に桜のシーズンに行きました。古堂具屋で伊藤常治作のこけしを3体購入。
店主のおじさんがこけしを「こゲェす」と力強く発するのが頭に残った。ゲェのところで顎に力が入る。
 翌々日の夜、東京・恵比寿のバーでこけしマニアの先輩と飲む。バーには女性が3人つとめていて、私たちはカウンターに陣取り、伊藤常治作の作風などこけし談義で盛り上がる。先輩はこの店には何度か来たことがあり、私は初めて。カウンターごしでお酒を作る女性が私たちの話を聞いていて、一人が時折愛嬌よく笑う。
 2杯ぐらい飲んだ先輩が「君はこけし顔だね」とその女性に語りかけた。私もさっきからそう思っていた。おぼこい、素朴な女の子の面影を残した顔。また、愛嬌よく笑う。
「伊藤常治のこけしみたいで本当にこけし顔だよ」と調子にのる私。
「こけしって、あのこけしですよね」
「あのこけし以外に何かあるの」(わかっているくせにおじさんはこんなことを言ってみる)
「いやだー」と言ってまた笑う。そこがまたこけし顔で可愛い女性であった。お客は私たち以外若い男性2組しかおらず、こけしちゃんは私たちの専属であった。
「こけしは東北だけのものなんだよ」
「へぇー」
「こけしは昭和初期のものにいいものが多いんだよ」
「へぇー」さぞかしつまらないおじさんの会話なんだろう。
「君はこけしに似ているってよく言われない?」
「言われたことありませんが、東北に親戚はいます」仕事上、話についてきているのだろう。
「やっぱりね。東北の可愛い女の子はみんなこけし顔だよ」
「そうそう」
「色白で藤あやこみたいでね」
「君も色白だね」
「そんなことないですよ」少し喜んだかな。
「伊藤常治のこけしの目もとにそっくり」
「誰ですか、その人」
「昔のこけし作家」
「でも、君みたいに色白で可愛い子は東京にはあまりいないよ」
「そうですか。でもあたし盲腸の傷があるんです」なぜ、こけしちゃんがここで盲腸の話をしたかはわからない。
「えっ、盲腸の傷?」
「最近、ちょっと痛むんです」
「季節の変わり目は古傷が痛むっていうからね」
「見ます?」
断っておくが、ここはいかがわしい飲み屋ではない。こけしちゃんは歳の頃なら23,4歳ぐらい。小柄な可愛らしい女性だった。
「うん」「見るよ」
立ったままスカートをずらし、恥ずかしがることなく下腹部を出し「ここです」と指差した。
「本当だ。盲腸の傷だ」
「変じゃないですか?」
「やっぱり色白だね」
「そうですかぁ」何もなかったようにスカートを元に戻す。私たちも何もなかったように飲み続けた。

 見ず知らずの人に盲腸の傷を見せられたのは初めてのことだったが、純朴だからそうしたとしか思えない。こけしを眺めているような温ったかい感じがしたのでもある。
 数カ月後、このバーへ行くとこけしちゃんは辞めて田舎へ帰ったことを知る。私は角館の古道具屋の店主みたいに「こゲェす」と残念な気持ちを込めて口にしてみた。

2005 December / Naoya #2



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