
GANさんのParis日記 4 [[/img/paris_logo.jpg
投稿日時 2005-10-19 17:05:10 | トピック: 岡崎がんのParis日記
| BAIL A CEDER
このところ、ここパリ十八区、アベッス街界隈では商店の浮沈が激しい。街が注目を浴び、流行りの店が並び立つ一方、時の流れについていかれない店は次々に閉められる。 店のウィンドーやシャッターには “ BAIL A CEDER ” の表示をよく見受ける。閉店に伴って、「建物の賃貸借権を譲渡します」という意味の表示だ。流行りすたりは仕方がないとしても、昔ながらの名残を留める店、例えば馬肉屋とか、臓物屋にこの表示が張られて姿を消していくのは、時代の趨勢とは言えなんとも淋しい。 閉店、新規開店とは別に、店舗の営業権を丸ごと譲渡してしまう場合もある。最寄りの店に立ち寄ると、いつもレジにでんと腰を据えていた女主人の姿が見当たらない。
代わりに見覚えのない痩せぎすの女性がやけに愛想よくせかせかと立ち働いている。どうしたんだろう、店主は病気かな。なんだか店の空気がいつもと違うな、などと思っていると、壁の張り紙が目にとまる。「所有者が変わりました」。 看板が変わるわけではない。店の名前はそのままだ。品揃えも今までとまったく同じ。店員の顔ぶれも同じ。店自体は昨日までとまったく変わらないままに、主人だけが入れ替わったのだ。いわゆる居抜きで売り買いする、というやつだ。 主人がそろそろ引退適齢期であるとか、閑古鳥の鳴くような店であるとかいうのならそれもわかるが、そこそこに流行っている店、あるいはドゥー・ムーランのように今が絶頂というような店でも売り買いはめずらしくない。
はたして、そのあたりの事情に詳しい人の話では、フランスでは日々の営業成績が店の売り買いの際の査定基準になるとのこと。つまり営業努力によって、店を買った時点以上に売上を積み増せば、売る時にはその分だけ評価が高くなり、差額を儲けとすることができるわけだ。そうした店自体の売り買いで利益を上げるというようなやり方が、街角の小商店でもしばしば取られる。 カフェ・ドゥー・ムーランのケースがまさにそれだ。映画“アメリー”の大ヒットによって一躍名を馳せ、ここを潮にとばかり売り抜けていったとの噂しきりだ。さもありなん。やるもんだなあ。
そんな巷の憶測は間違いではないにしても、長年続いてきたカフェである。譲り渡すに際しては決断も要しただろうし、損得とはまた別の事情もあったことだろう。 このカフェに愛着を持つ常連客は多かった。界隈での高い評価は定着していた。このカフェのイメージなくしては映画が成り立たなかったように、独自な雰囲気を備えていた。 家族でがっちりスクラムを組んだ統率の良さ。カフェ経営に対するプライドといったものも感じられた。ギャルソンや厨房の中にまでプロ意識がみなぎっていて、歯切れのよいきびきびとしたテンポはさわやかだった。客に対してはつかず離れずの応対。どんな異常事態にも動じることなく見事に対処する。もちろんコーヒーの味もしっかりしていて、昼定食の質も高い。派手さはないけれど、オーソドックスな粋さを保つカフェとしてジュネ監督を始め、界隈に住む多くのアーティストを惹きつけていた。 それにしても残念だと惜しむ声、落ち着き場所をなくしてしまったと嘆く声があちこちから上がったのも当然である。
新しいカフェ・ドゥー・ムーラン。タバコ売り場が取り払われて客席が広がったほかは、外観も以前と変わりない。明るく、気持ちよいカフェである。賑やかでファッショナブルである。ネームバリューも加わり、以前以上に流行っている。しかし古い馴染み客にとっては……。 いや、旧懐にひたるのはよそう。歳不相応だ? パリも自分も日々新しく生まれ変わっていく
2005 October / GAN
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