東理夫〜鎌倉ぶらり散歩道#4〜[[/img/higashi1.jpg

投稿日時 2005-8-29 21:45:05 | トピック: 東理夫〜鎌倉ぶらり散歩道〜

秋谷の海と月下美人

 一時、秋谷に家があった。カミさんの実家の夏の家で、一年中ほとんど、それこそ空家に近かった。鍵型の古い日本家屋で、海に向かう側は三面がガラス戸の広縁になっていて、いい風が吹き抜けていった。そこでぼくはずいぶん本を書き、翻訳をした。修行の時代のようなものだった。あの家がなかったら、今のぼくはなかったかもしれない、と時どき振り返る。

 葉山の奥のチベット、と呼ぶ口の悪いやつもいる秋谷だけれど、そこに馴染んだせいか何かがあるとよくそこまで出かけていく。国際村が出来て、ずいぶんと近くなった。葉山側からの道の真向かいに逗葉新道空のトンネルができて、横横からも来やすい。

 今も夏になると、秋谷の下、芦名にある海のすぐ横のプールに泳ぎにいく。夏休み前の早い時間、泳ぐ人がいないことがある。海の匂いのする風に吹かれて、プールサイドで本を読む。熱くなると、ちょっと泳ぎ、また上がってきて本を読む。プールサイドは読書にはとてもいい。
 帰り道、トンネルの先の右手に、友人の岡本さんたちが作った<アリス・ヴィラ・リゾート>がある。
 早い夕刻、食べに寄ったりする。海の幸がいいのは土地柄だけど、野菜類の工夫が楽しい。葉山から秋谷にかけて、いい店が多い。いや、本物の店が、というべきだろう。通りすがりの観光客でなく、土地の人が店を育ててきたからだ。
 アリス・ヴィラから帰ると、月下美人が咲いていた。朝、今夜にも咲きそうだったので部屋に入れておいたのがよかった。
 満月の夜にだけ咲くこの月下美人という花の名前は、カミさんの曾祖父が命名したと聞く。香りのよさが、人を惑わすようだ。しかし寿命は一晩。朝になるとしおれている。
 これまでのことが、とくに秋谷の家で過ごした日々が、まるで一夜の夢のように思える月下美人の夜なのである。

2005 August / Higashi



ShuShu鎌倉カフェにて更に多くのニュース記事をよむことができます
http://shushucafe.com

このニュース記事が掲載されているURL:
http://shushucafe.com/article.php?storyid=22