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海辺の読書とオイルサーディン

 海辺で、本を読むのが好きだ。風の温かな午後、材木座の砂浜を文庫本片手に歩く。時どき、組み立て式の木製ビーチチェアをぶら下げていくことあるけれど、たいがいは手ぶらで行く。そんな時は、腰掛けるにいい石を見つけるか、あるいは背をもたせかけるのに具合の良さそうな一壁を見つけて、温もっている砂に腰を下ろす。
 好きな本のページを開く時の喜びというのは、たとえば、好きなキャンディの包み紙を開ける時とよく似ている。チョコレートをくるむ銀紙を開ける時にも、それは共通している。
 遠くに波の音が聞こえ、目を上げるとそう大きくない波にまるで黒い水鳥のようなサーファーたちが、それでも懸命に乗っている。背後のR134を走っている車の音も、壁の角度の関係かもしれないけど、ここまでは届いてこない。

 一時間ほどいたろうか。風が舞いはじめたので本を閉じ、立ち上がって尻の砂をはたき落とした。風に背中を押されるようにして海辺から遠ざかっていくにしたがって、あらためて海の臭いが身体に染みていたことに気がついた。
 家までの間に魚屋があって、そこに盆ザルに盛った小鰯を売っていた。7センチほどあるだろうか。あまりの安さに、つい買ってしまった。家に帰って頭を取り、腹を斜めに切り落とし、手塩を振って少し置いた。水が出たら拭いて、一列に並べられるフライパンに敷き詰め、ニンニクと鷹の爪とローリエの葉を入れてオリーヴオイルをひたひたに注ぐ。
 弱火で一時間。ふつふつと泡が出るくらいにしておく。煮えたら、室温までそのままで冷まし、それから好みの容器に入れる。ぼくは、ガラスのメースン・ジャーに入れる。オイルサーディンの出来上がりだ。

 これを肴に、カナディアン・クラブのハイボールを飲みながら昼間の本のつづきを読む。ページを開くと、砂粒がこぼれた。砂のしおりだな、といい気分でグラスを持ち上げる。

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