エチオピアン・コーヒー・セレモニー パリの冬は寒く、暗く、長い。寒いはまだしも、暗く長いとなると相当に鬱陶しい。性格は歪むし、話題も陰にこもりがちだ。三月に入ったと言っても、まだまだ気が抜けない。ということで、春の到来に先駆けてパリを離れ、日の光あふれるアフリカへと一気に話を飛ばすことにした。 アフリカ、そしてコーヒーとくれば、まず頭に浮かぶのがエチオピアだ。エチオピアはコーヒーの原産地だとも言われている。そしてここにはコーヒーセレモニーと呼ばれる独特なコーヒー文化がある。コーヒーを供して客をもてなす儀礼で、日本の茶道ともよく似ている。 話は少し脱線するが、似ていると言えばこのコーヒーセレモニーを初め、エチオピアと日本には意外な共通項が多い。その際立った例がお辞儀である。我々が挨拶する時に軽く、あるいは深々と頭を下げる、あれである。エチオピア人も全く同じようにお辞儀をする。これにはちょっとビックリする。顔かたちも肌の色も違う人たちがやるから驚きはひとしおだ。地理的に遠く離れ、歴史背景も異にする二つの文化が、これほどの相似性を持つのはいったいどうしたわけだろうと、いつも不思議に思う。 コーヒーセレモニーは人々の日常生活に深く密着しているだけあって、茶道ほど格式張ったものではない。ずっとくだけている。作法を知らないから呼ばれても気後れするといったものではない。快く招きに応じ、セレモニーを楽しむ心が作法だ。 とは言うものの、セレモニーに招かれたらすぐおいしいコーヒーにありつけると思ったら大間違いだ。セレモニーと呼ばれるからにはそれなりの手順や様式はしっかり定まっていて、その手順を初めから終わりまで順に追っていかなければならない。もちろんコーヒーを入れる手順のことである。 まずは炭に火を熾すところから始まる。と言えば先は長いことがお分かりでしょう。実際、一通り終えるまで一時間、二時間とかかる。コーヒーセレモニーに呼ばれたら腹をくくる必要があるのだ。ちょっとコーヒーのお相伴に預かろうなどという気持ちで出かけると、エラいことになる。 初めのうちは残っている仕事が気になったりして、その悠長さにイライラする。しかし慣れるに従って、このゆったりとした時の流れに身を任すすべが身についてくる。気持ちをくつろがせ、のんびりと主人や同席者との談笑を楽しむことができるようになるのだ。 セレモニーの進行を司るのは女性である。男性はいっさい手出しをしない。ただ脇で眺め、談笑に専念する。エチオピア女性は美人の誉れが高いが、美しい上に、はにかみがちな奥ゆかしさを兼ね備えている。そんな女性がかしずくように、粛々ともてなしの準備を進めていく姿を脇で眺めながらの談笑である。会話も弾もうというものだ。 部屋の床には草が敷き詰められ、香が焚かれ、煙がモクモクと立ちこめる。セレモニー開始の合図だ。まずコーヒーの生豆が水洗いされる。洗うというより、米をとぐような感覚で、この手つきがまた文化的親近感を感じさせる。洗い終わった豆は七輪にかけ、炭火で煎る。煎ったコーヒー豆の香りがぷーんと漂ってくる。いい感じです。そろそろかな。煎り上がった豆は乳鉢に入れ、すりこぎで砕く。粉になったコーヒーに湯を注ぎ、セレモニー専用の陶製のクビ長ポットで煮立てる。香りよい湯気を立てたコーヒーが小さめの茶碗に注がれ、会席者一同に配られる。さあ召し上がれ。 ポットに残った出がらしには再び湯が注がれ、煮立てられ、二番茶、三番茶と引き続く。そこまでが式の一部始終である。 どうです、なかなかよろしいでしょう? だから僕はエチオピアのコーヒーも美人も大好きだ。2005 October / GAN※写真を青年海外協力隊のエチオピア滞在の管理人Shiraishihさんからお借りしました。どうもありがとうございます。http://www.geocities.jp/ethiopiabet/index.html
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