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日曜日の浄瑠璃
<番外編>

娘義太夫を聴きにいこうと思いたった。もちろん誘いがあったからだ。日本の中世以後の語り物の音曲の浄瑠璃の流派のひとつが、竹本義太夫が17世紀に生み出したのが義太夫節だ。浄瑠璃といえば今では文楽の人形浄瑠璃で知られているが、かつて、そう明治末から大正にかけて大変な人気を博したのが、若い女性の語る娘義太夫だった。
すでに絶滅したと思われるその娘義太夫、あるいは女義太夫を楽しむことができるというのだ。行かないわけにはいかない。場所は江東区の門前仲町の小料理屋の座敷。<もんなか>はいい居酒屋があって、好きな街だ。いつだって行きたくなる街だ。地下鉄を上がるとすぐに深川不動尊があって、その参堂にはどこか懐かしいような店が並んでいる。
時分時。このあたりは浅蜊と大根を煮たものを丼飯にかけた<深川丼>が名物だ。参道に面した一軒、深川丼と深川飯、それになぜかエビフライ定食なんかをやっている店に入って、深川丼セットとビールを注文する。ビールの栓を抜く間に丼が届く。卵でとじてあるわけでなく、さらりと煮た甘辛の浅蜊がかけられたもので、日向ぼっこをしているような温かな気分にしてくれる味だ。

店を出て不動尊の境内を横目に、富岡八幡宮を抜けて会場の小料理屋に向かう。日曜日の午後。のんびりした空気の中、近所の夫婦連れや若いカップル、お年寄り仲間などがお参りしている。こういう時間がたまらなくうれしい。
太棹の三味線を伴奏に竹本越孝(こしこう)さんの義太夫は、まさに衝撃だった。演し物は安永二年初演の「摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)」。ある時はすすり泣き、かき口説き、甘えるように人の心に忍び込んでくるかと思うと、怒り、憎み、嘆き、まさに怒髪天を突く勢いで、ぼくはほとんど度肝を抜かれた。実に凄い。落語の「寝床」なんかでの浮ついた知識が恥ずかしい。
古典演芸の奥行きの深さに衝たれた、いい日曜の午後だった。

2005 June / Higashi

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